骨を再生するリッジオギュメンテーション2

ボーングラフトというのは、下顎骨(レイマス)から縦1センチ、横4センチほどの大きさで皮質骨を切り取り、血液が通りやすいように小さな穴を空けてチタンのピンで留めることで骨を作る方法です。

硬くしっかりしている下顎骨を貼りつけることで、この骨をベースにして血液によって細胞を活性化させて新たに骨を再生させていきます。骨はどうしても吸収されますので、少し多めに取り付けておくことが必要です。この方法でも骨ができるのに、メンブレンと同じ程度の4ヶ月から6ヶ月が必要です。

ディストラクションというのは、骨を作りたい部位に仮の骨を設置して、真ん中にディストラクターという器具を取り付けます。この器具は仮の骨を軽くピン留めしているようなもので、その後骨ができるスペースを確保するために何日かに1ミリ程度ずつ上方へ仮骨を動かして、仮骨と母骨の間に骨を作る方法です。

ボーングラフトには、ホースシューグラフトという方法もあります。上顎の骨に著しい吸収がありますが下顎は比較的良好な状態を保っている総義歯の場合、下顎の丈夫な下顎骨を、骨の厚みの部分を真ん中から裂くように二分割にして馬蹄形のように移植骨を上顎に貼り付けることで、骨を作る方法です。

骨の状態に応じて、どの方法を用いたらインプラント埋入が可能になるのかを考慮して、最適な方法で骨を再生することが行われています。

骨を再生するリッジオギュメンテーション1

骨がほとんど吸収されてしまっている場合には、インプラント体を埋入することは不可能なので、骨を再生しなければなりません。インプラント体を埋入するには、骨の高さと厚みの両方が必要です。

具体的にどのように実施するか、3通りについて説明しましょう。

・メンブレンで骨を作る方法
・ボーングラフトで骨を作る方法(骨移植)
・ディストラクションといって、骨を動かして、仮骨延長術で骨を作る方法

メンブレンというのは人工の膜のことで、これを用いた骨の再生法は1988年に開発されています。インプラント体を埋入するためには、骨の高さが不足している場合に実施するのはこの方法です。

骨を増やしたい部分に、下顎や腰から取った自分の骨を小さく砕き、歯骨補填剤を混ぜておき、その上をメンブレンで覆います。

メンブレンで覆われた部分には、歯肉などの軟らかい組織が混入しなくなり、骨の再生が促進されます。

メンブレンには生体に吸収されるものとされないものがあり、吸収されない場合は骨ができた時点で取り出さなければなりません。

骨の再生は個人差がありますが、5ヶ月から6ヶ月でインプラント埋入可能なところまで骨が再生されることが確認されています。GTRと同じ原理です。

骨がなければ骨を作って治療する2

骨がないために、インプラント体を埋入することができない下顎の臼歯部の場合も、3種類の方法があります。

この部分には、おとがい孔の奥に下顎管があり下顎神経や動脈が通っていて、おとがい孔から外に出ています。もしドリリングやインプラント体の埋入によって、下顎管を傷つけてしまったら感覚麻痺が起こります。

そこで、「下顎神経移動術」といって、インプラントの埋入前に下顎管の神経などを移動させておいて、最後に元に戻す方法が実施されています。

このほか、GBRで作るボーングラフトやディストラクションを実施する方法もあります。前歯が健康で臼歯部のみ骨が吸収されている場合は、この3つの中から最適な方法を選んで実施します。

下顎の前歯のみ歯芽があり、左右の臼歯部(奥歯)の両方に歯芽がない場合には、戦略的に残っている下顎の前歯を抜いて、両側のおとがい間に6本から3本のインプラント体を埋入し、上部構造の歯を装填することで対応するケースもあります。

患者さんの状態によってどの方法が最適かを判断することで、負担が少なく最適な治療が可能となります。

骨がなければ骨を作って治療する1

通常のインプラント治療ができないケースは、2つです。1つは骨の質が悪い場合、そして骨の量が足りない場合です。

骨の質に関しては、インプラント体の表面の加工やインプラント体そのものの形状を変えることで、これを解決しています。骨の量が足りない、つまり骨のないケースに関しては様々な技術が開発されています。これに対応するのが、骨を作る技術(リッジオギュメンテーション)です。

古典的な方法では、骨を移植します。口の中から骨を取る方法と、腰骨や脾骨など体のほかの部分から骨を取ってきて移植することもあります。これをボーングラフトといいます。他の治療にも骨を使う可能性があるので、現在は人工の代替骨なども使うようになっています。

もう1つがGBRといって、人工の膜、メンブレンを使う方法です。

最後は、ディストラクション(仮骨延長術)で骨を増やしてく方法です。

この3つが骨を増やして、インプラントを埋入する基本的な治療法です。骨の再生以外には、歯槽骨以外の周囲の骨にインプラント体を埋入し維持を求める技術があります。これは、骨の高さがない場所にインプラント体を斜めに埋入する技術や、上顎の場合、頬骨や蝶形骨など他の硬い骨にインプラント体を埋入する方法です。

骨質が良くないケースに対応するインプラント体

骨を修復するのは海綿骨という血管が通っている柔らかい骨です。しかし、海綿骨が極端に少なく、硬い皮質骨だけになっているケースがあります。そういう場合でも、インプラント体の表面の仕上げを粗くしたラフサーフェス上部のオッセオ・インテグレーションが可能となるインプラント体を使うことで対応できるようになりました。
インプラント体に咬合圧がかかり過ぎると、埋入するとき上部に応力が集中し、それが原因で骨の吸収が始まることがわかっています。特に、表面の皮質骨に埋入されている部分には応力がかかるので、この部分にマイクロスレッドを入れると力が分散されるのが確認います。
また細かいスレッドをたくさん入れることで、骨の生育を促進することもできることがわかっています。そこで、溝の幅を骨の細胞の大きさに合わせてスレッドを刻む超ミクロの加工を施すことで、骨の生育をいっそう促進することができるようになっています。
また、骨が吸収されるのを抑えるために、アバットメントの形も変化しています。

骨の質と量の問題を解決するアプローチ2

骨のクオリティだけではなく、骨の量が少ないケースも多いです。歯を抜くと骨の吸収がはじまり、下顎は上から下に向けて垂直的に骨がなくなっていき、幅はあるが高さがなくなってきます。上顎の場合は、骨の高さもなくなりますが、その前に外側の唇側、頬側からも骨が吸収されるので厚みもなくなってきます。
骨の高さも幅もないというところに、インプラント体を埋入しなければなりません。インプラント体の直径は約4ミリ、周囲に最低1ミリずつの余裕が必要なので、骨は6ミリの幅が必要になってきます。この幅が取れない場合は、インプラントを諦めなければなりませんでした。
しかし現在は、骨の量が足りないケースにも対応できるように技術的な解決がなされています。最近は骨を再生して増やす技術も開発されているので、骨の量が少ない場合でも十分対応できるようになってきているのです。

骨の質と量の問題を解決するアプローチ1

現代のモダンインプラント治療がスタートして40年が経過し、インプラント治療に対する患者側のニーズが多様化しています。従来は治療不適合とされた患者の中にも、インプラントを希望する人が増えています。それに対応するために、インプラント自体も改良されています。従来インプラントが不適合されていたのは、骨の質がよくない場合です。
皮質骨が非常に薄く海綿骨が柔らかすぎる場合、ドリルをした後にインプラント体を埋入しても、初期固定が得られず動いてしまうことがあります。
そういう人でも、チタンの表面を変えることでオッセオ・インテグレーションが得られるようになっています。インプラント体の表面を粗くすることで、その周りに血液が集まり、骨ができるようになるために可能となりました。インプラント体にティーパーをうけて、初期固定しやすいようにデザインされたものも開発されてきていて、海綿骨が少なく皮質骨が多くて骨を作りにくい症例でも、インプラント体を改良することで治療が可能になっています。

かみ合わせの圧力に耐える工夫2

インプラント治療を開始してしっかり噛めるようになるまでには、下の歯で最低5ヶ月、上の歯で最低7ヶ月程度かかるということです。完全にチタンが骨にくっつくまでには、歯を取り付けてからさらに1年から1年半かかります。つまり、オッセオ・インテグレーションが完成するまでには、実質2年以上かかるということになります。
それでは、どうしてインプラント体を埋入してから4ヶ月でアバットメントを取り付けることができるのでしょうか。
実は皮質骨にしっかりとインプラント体が乗っていることで、これが可能になっているのです。海綿骨とチタンが臨床上使える程度にオッセオ・インテグレーションができていれば、皮質骨がインプラント体の咬合圧を負担できるので4ヶ月経てば噛めるようになります。
現在は共振共鳴装置が開発され、インプラント体に振動を加えその数値を測ることで、骨にどれくらいの強さでくっついているかを調べる方法も開発されています。インプラント治療は、シンプルな治療です。

かみ合わせの圧力に耐える工夫1

上下の歯を力いっぱい?み合わせると、一平方センチあたり20キログラムを超える力がかかります。リンゴをかじっただけで、これほどの力がかかります。歯はこうした強い圧力に耐えながら、日常的に噛むという行為を繰り返しています。
インプラントが入れ歯と違う大きな理由は、噛むときにかかる圧力をしっかり受け止め負担するので、残っている自分の歯に余計な負担をかけないということです。
このためには、当然インプラント体がしっかり骨に固定されてグラグラしないということが必要です。
下顎にインプラント体を埋入した場合は、臨床的にオッセオ・インテグレーションが獲得できるまで4ヶ月そのまま置いておきます。上顎は骨が薄くて柔らかいので、定着まで6ヶ月程時間がかかります。
その間は仮歯を装着し、インプラント体に負担をかけないようにします。一定の期間が経過し、骨にくっついたことが確認されてはじめて、上部の歯を取り付ける治療にはいります。
治療の最初は、歯を取り付ける土台となるアバットメントをインプラント体の上につけます。アバットメントは歯肉を貫通させる装置でその上に歯が装填されます。取り付けてから3週間程おいて歯肉のキズが治るのを待ち、治癒した後に、上部構造体(歯)の型を採り、技工操作で歯を作り、それをアバットメントに取り付けます。

外科的テクニックで失敗を防ぐ2

気をつけなければならないものに熱があります。
インプラント体を埋入するために、事前に骨にドリルで穴を空けます。一度でうまく空けばいいですが、骨が硬かったり、適切な位置にドリルを当てなかったことで、なかなか穴が空かないこともあります。この場合、ドリルを骨の上で空回転させると先端に熱を持ちます。

このとき、ドリルの温度が47℃を超してしまうと、骨がくっつかなくなります。47℃以上では骨の細胞が熱によって死んでしまいますので、オッセオ・インテグレーションが起こらなくなり、チタンのインプラント体といえども抜ける可能性があります。そのために新しいよく切れるバーで、ドリリングスピードをコントロールしながら、常に低い温度で回転させることで熱を持たせないようにする必要があります。と同時に、冷却した生理食塩水でドリルと術部を洗いながら形成しています。

インプラント体と生体がくっついてくれることを願い、以前はインプラント体そのものを生理食塩水で洗い冷却しながら埋入する方法がとられていたそうですが、現在は本人の血液をインプラント体につけて埋入するようになっています。といいますのも、血液がついているとオッセオ・インテグレーションが早く行われることがわかってきたからです。
ドリルが熱を持たないようにゆっくりしたスピードで、血液をつけながら埋入するというのがサージカルテクニックとして大切です。