完全に吸収された上顎の骨を再生する2

上顎の前歯のかろうじて残っている骨に、切り取ったばかりの骨を被せるように置き、チタンのピンでしっかり固定して、周囲をメンブレン(人工の膜)で覆って骨を作ります。

貼り付ける骨には小さな穴を空けておき、血液が通ることで骨を再生しやすくなります。5、6ヶ月後、骨の厚みと高さが確保できるようになったらインプラント体を埋入します。

上顎の奥歯の骨がない場合はサイナスリフトや、ザイゴマティック・インプラントを使います。
第二小臼歯のところから頬骨に向かって両側にザイゴマティック・インプラントを埋入します。両側の側切歯または犬歯部に通常のインプラントを2本埋入し、計4本のインプラントを埋入し上部構造を支えます。頬骨はしっかりしており、上部の歯を装填しても大丈夫なのでいきなり入れて噛めるイミーディエートローディングも可能です。

ザイゴマティック・インプラントはローディング(咬合圧)に強いのでこれが可能になります。ザイゴマティック・インプラントは4本のみで歯を装填するのは、ザイゴマの利点をよく活かせる方法です。特に骨の大きい男性に向いている治療です。

こうした一連の手術は難しい治療で、かなりの技術を必要とします。さらに、インプラントは、咬合圧との戦いです。噛むときの状態がよくなかったり、過重がかかるオーバーローディングの場合には、骨が溶けていきます。それをフォローするためには、患者それぞれの骨の状態を見ながら、咬合調整が必要です。

完全に吸収された上顎の骨を再生する1

上顎の骨が完全に吸収されてなくなっている症例も多いです。従来は骨がないケースでは総義歯にしていましたが、それではますます骨の吸収が進むのが問題でした。

原因の大半は歯周病です。歯周病になっても、できれば歯は抜きたくないと考える患者さんが多いです。医者も患者の希望に沿いたいと、何とか最後まで歯を残そうと努力します。

しかし歯周病の感染が進めば当然のように骨が溶けて吸収されます。歯はかろうじて最後まで残ったかもしれませんが、骨が全部なくなっているということもよくあります。

骨がすべて吸収されてなくなってしまってからでは、今までは治療の方法がありませんでした。 

上顎に骨がまったくなく、サイナスが大きく広がるばかりで、鼻のところまで骨がなくなっていることもあります。こういうケースではインプラントはできませんし、総義歯で我慢しながら、本当に不自由な生活に耐えなければなりません。

ところが、今はこうしたケースに対してもインプラント治療が可能になっています。考え方としては、上顎の前の骨の厚みを増やすために骨を再生します。つまり、なくなってしまった骨を再生することで、ふたたび使えるようにしようという技術です。

下顎骨(レイマス)から縦1センチ、横4センチ程度の骨を切り取ります。もちろん、口の内側から切るので、外には傷口が見えません。

歯槽骨の代わりに頬骨を使う治療2

ザイゴマティック・ボーンといって、サイナスを横切り、頬骨の眼球の脇にある骨にインプラント体を埋入する方法もあります。この骨も蝶形骨同様硬いので、しっかりインプラントを埋入することが可能です。上顎の骨が著しく消失している患者さんに対しては、眼球の脇の頬骨にインプラントを2本埋入して仕上げるザイゴマティック・インプラント治療を実施することが多いです。

これについては名古屋大学の上田実教授が、ザイゴマティック・インプラントの適用症例について書いた論文があり、局部欠損にもその有効性が実証されています。

手術は口腔内で行うためにまったく傷跡は残りません。レントゲンを撮ると頬のあたりを斜めに横切るインプラント体があるのがわかりますが、外から歯を見ただけではまったくわからず、美しく仕上がります。このように、サイナスリフトを使わずに、ザイゴマティック・インプラントだけで治療を行うことも可能です。

これらの治療のいいところは仮に5ミリ程度の骨が残っている場合は、頬骨にインプラントを埋入したあとすぐに歯を装填することもできることです。頬骨のインプラントは噛む圧力に対しても強いので、奥歯に対して使ってもイミーディエートローディング(その日に歯を取り付け噛むこと)ができます。

ザイゴマティック・インプラントの成功率は97.1パーセントと、現在のところかなりいい結果を残しています。高い治療技術が要求されるだけでなく、使い方が難しいです。しかし、インプラントを諦めていた症例にも使える技術です。

歯槽骨の代わりに頬骨を使う治療1

上顎の骨が少なくなっている症例はかなり多いので、骨を作るのではなく、確実にインプラントを埋入できる方法も開発されています。

頬骨や、蝶形骨(ちょうけいこつ)などに長いインプラント体を斜めに埋入して、しっかり固定する技術です。

頭蓋骨をみると、サイナスの隣に鼻腔があり、そこには硬い骨があります。また、奥のほうは上顎結節や蝶形骨という骨があります。

ここに、長いインプラント体を埋入してその上に歯を装填しても耐えられます。そこで、これらの骨に向けて斜めに長いインプラント体を埋入します。

特に上顎結節の奥のほうにある蝶形骨の翼状突起という骨で、ここに斜めにインプラント体を埋入、ブリッジを支台として使用するという方法が有用です。

上顎の骨がない場合のサイナスリフト法2

上顎の骨は下顎に比べて軟らかくて薄く骨が少ないので、サイナスを元の位置まで引き上げてそこに骨を作り、骨の厚みを確保するという治療がサイナスリフトです。サイナスは上顎粘膜で骨と接触しているので、最初にこれを剥がし、引っ張り上げます。

これによってできた空間に、患者の下顎や腰から一部切除した骨を砕いたものを充填したり、あるいは骨補填剤を混ぜたり、骨補填剤のみを充填して骨を作ります。そこをメンブレンで多い、移植した骨や骨補填剤によって骨ができるのを待ちます。

この他にサイナスリフトは挙上して、そこに膜を取りつけて作り出された空隙を維持することによって、何も充填しないで骨を作る方法もあります。

骨ができるのを待ってインプラント体を埋入する方法と、移植と同時に埋入する方法があります。インプラント体が、サイナスとの間に空間を作る傘の骨のような働きをすることで、そこを骨で満たすという考え方で開発された方法です。

以上が上顎臼歯部の骨が少ない場合の骨の再生の基本的な方法です。

サイナスリフトで骨を作り、長期使用するケースの成功率は90パーセント程度です。もちろん、まったく骨がないケースでは、まずサイナスリフトである程度骨をつけてから治療せざるを得ません。

上顎の骨がない場合のサイナスリフト法1

上顎の場合は、骨が柔らかく薄いので、どうしても骨を増やす何らかの外科的な処置が必要なケースが多いです。

骨を増やす方法はボーングラフト、メンブレンで骨を作る方法、ディストラクションなど様々開発されていますが、上顎臼歯部(奥歯)で比較的よく行われるのは、サイナスリフトという方法です。

特に難しいのは、上顎の臼歯部の骨がない場合です。上顎には上顎洞(サイナス)があります。サイナスは、上顎の歯槽骨の上部にある大きな空洞で、それが鼻腔へとつながっています。頬のあたりを触ってみると、頬骨の下あたりにくぼみが感じられる場所がありますが、それがサイナスです。

歯を抜くと骨が頬側(きょうそく)から吸収されます。つまりサイナスは外側から内側に向けて吸収するだけでなく、含気圧といって息を吐くときに呼気の圧力がかかります。

この鼻から抜ける空気の圧力のためにサイナスが大きくなります。歯を抜くと骨が吸収されるだけでなく、内側から押されるのでますます骨の高さがなくなり、インプラントは埋入できなくなります。

このサイナスの下底を再度引き上げることで、インプラント体の埋入場所を確保しなければなりません。

骨を再生するリッジオギュメンテーション2

ボーングラフトというのは、下顎骨(レイマス)から縦1センチ、横4センチほどの大きさで皮質骨を切り取り、血液が通りやすいように小さな穴を空けてチタンのピンで留めることで骨を作る方法です。

硬くしっかりしている下顎骨を貼りつけることで、この骨をベースにして血液によって細胞を活性化させて新たに骨を再生させていきます。骨はどうしても吸収されますので、少し多めに取り付けておくことが必要です。この方法でも骨ができるのに、メンブレンと同じ程度の4ヶ月から6ヶ月が必要です。

ディストラクションというのは、骨を作りたい部位に仮の骨を設置して、真ん中にディストラクターという器具を取り付けます。この器具は仮の骨を軽くピン留めしているようなもので、その後骨ができるスペースを確保するために何日かに1ミリ程度ずつ上方へ仮骨を動かして、仮骨と母骨の間に骨を作る方法です。

ボーングラフトには、ホースシューグラフトという方法もあります。上顎の骨に著しい吸収がありますが下顎は比較的良好な状態を保っている総義歯の場合、下顎の丈夫な下顎骨を、骨の厚みの部分を真ん中から裂くように二分割にして馬蹄形のように移植骨を上顎に貼り付けることで、骨を作る方法です。

骨の状態に応じて、どの方法を用いたらインプラント埋入が可能になるのかを考慮して、最適な方法で骨を再生することが行われています。

骨を再生するリッジオギュメンテーション1

骨がほとんど吸収されてしまっている場合には、インプラント体を埋入することは不可能なので、骨を再生しなければなりません。インプラント体を埋入するには、骨の高さと厚みの両方が必要です。

具体的にどのように実施するか、3通りについて説明しましょう。

・メンブレンで骨を作る方法
・ボーングラフトで骨を作る方法(骨移植)
・ディストラクションといって、骨を動かして、仮骨延長術で骨を作る方法

メンブレンというのは人工の膜のことで、これを用いた骨の再生法は1988年に開発されています。インプラント体を埋入するためには、骨の高さが不足している場合に実施するのはこの方法です。

骨を増やしたい部分に、下顎や腰から取った自分の骨を小さく砕き、歯骨補填剤を混ぜておき、その上をメンブレンで覆います。

メンブレンで覆われた部分には、歯肉などの軟らかい組織が混入しなくなり、骨の再生が促進されます。

メンブレンには生体に吸収されるものとされないものがあり、吸収されない場合は骨ができた時点で取り出さなければなりません。

骨の再生は個人差がありますが、5ヶ月から6ヶ月でインプラント埋入可能なところまで骨が再生されることが確認されています。GTRと同じ原理です。

骨がなければ骨を作って治療する2

骨がないために、インプラント体を埋入することができない下顎の臼歯部の場合も、3種類の方法があります。

この部分には、おとがい孔の奥に下顎管があり下顎神経や動脈が通っていて、おとがい孔から外に出ています。もしドリリングやインプラント体の埋入によって、下顎管を傷つけてしまったら感覚麻痺が起こります。

そこで、「下顎神経移動術」といって、インプラントの埋入前に下顎管の神経などを移動させておいて、最後に元に戻す方法が実施されています。

このほか、GBRで作るボーングラフトやディストラクションを実施する方法もあります。前歯が健康で臼歯部のみ骨が吸収されている場合は、この3つの中から最適な方法を選んで実施します。

下顎の前歯のみ歯芽があり、左右の臼歯部(奥歯)の両方に歯芽がない場合には、戦略的に残っている下顎の前歯を抜いて、両側のおとがい間に6本から3本のインプラント体を埋入し、上部構造の歯を装填することで対応するケースもあります。

患者さんの状態によってどの方法が最適かを判断することで、負担が少なく最適な治療が可能となります。

骨がなければ骨を作って治療する1

通常のインプラント治療ができないケースは、2つです。1つは骨の質が悪い場合、そして骨の量が足りない場合です。

骨の質に関しては、インプラント体の表面の加工やインプラント体そのものの形状を変えることで、これを解決しています。骨の量が足りない、つまり骨のないケースに関しては様々な技術が開発されています。これに対応するのが、骨を作る技術(リッジオギュメンテーション)です。

古典的な方法では、骨を移植します。口の中から骨を取る方法と、腰骨や脾骨など体のほかの部分から骨を取ってきて移植することもあります。これをボーングラフトといいます。他の治療にも骨を使う可能性があるので、現在は人工の代替骨なども使うようになっています。

もう1つがGBRといって、人工の膜、メンブレンを使う方法です。

最後は、ディストラクション(仮骨延長術)で骨を増やしてく方法です。

この3つが骨を増やして、インプラントを埋入する基本的な治療法です。骨の再生以外には、歯槽骨以外の周囲の骨にインプラント体を埋入し維持を求める技術があります。これは、骨の高さがない場所にインプラント体を斜めに埋入する技術や、上顎の場合、頬骨や蝶形骨など他の硬い骨にインプラント体を埋入する方法です。