骨を修復するのは海綿骨という血管が通っている柔らかい骨です。しかし、海綿骨が極端に少なく、硬い皮質骨だけになっているケースがあります。そういう場合でも、インプラント体の表面の仕上げを粗くしたラフサーフェス上部のオッセオ・インテグレーションが可能となるインプラント体を使うことで対応できるようになりました。
インプラント体に咬合圧がかかり過ぎると、埋入するとき上部に応力が集中し、それが原因で骨の吸収が始まることがわかっています。特に、表面の皮質骨に埋入されている部分には応力がかかるので、この部分にマイクロスレッドを入れると力が分散されるのが確認います。
また細かいスレッドをたくさん入れることで、骨の生育を促進することもできることがわかっています。そこで、溝の幅を骨の細胞の大きさに合わせてスレッドを刻む超ミクロの加工を施すことで、骨の生育をいっそう促進することができるようになっています。
また、骨が吸収されるのを抑えるために、アバットメントの形も変化しています。
骨の質と量の問題を解決するアプローチ2
骨のクオリティだけではなく、骨の量が少ないケースも多いです。歯を抜くと骨の吸収がはじまり、下顎は上から下に向けて垂直的に骨がなくなっていき、幅はあるが高さがなくなってきます。上顎の場合は、骨の高さもなくなりますが、その前に外側の唇側、頬側からも骨が吸収されるので厚みもなくなってきます。
骨の高さも幅もないというところに、インプラント体を埋入しなければなりません。インプラント体の直径は約4ミリ、周囲に最低1ミリずつの余裕が必要なので、骨は6ミリの幅が必要になってきます。この幅が取れない場合は、インプラントを諦めなければなりませんでした。
しかし現在は、骨の量が足りないケースにも対応できるように技術的な解決がなされています。最近は骨を再生して増やす技術も開発されているので、骨の量が少ない場合でも十分対応できるようになってきているのです。
骨の質と量の問題を解決するアプローチ1
現代のモダンインプラント治療がスタートして40年が経過し、インプラント治療に対する患者側のニーズが多様化しています。従来は治療不適合とされた患者の中にも、インプラントを希望する人が増えています。それに対応するために、インプラント自体も改良されています。従来インプラントが不適合されていたのは、骨の質がよくない場合です。
皮質骨が非常に薄く海綿骨が柔らかすぎる場合、ドリルをした後にインプラント体を埋入しても、初期固定が得られず動いてしまうことがあります。
そういう人でも、チタンの表面を変えることでオッセオ・インテグレーションが得られるようになっています。インプラント体の表面を粗くすることで、その周りに血液が集まり、骨ができるようになるために可能となりました。インプラント体にティーパーをうけて、初期固定しやすいようにデザインされたものも開発されてきていて、海綿骨が少なく皮質骨が多くて骨を作りにくい症例でも、インプラント体を改良することで治療が可能になっています。
かみ合わせの圧力に耐える工夫2
インプラント治療を開始してしっかり噛めるようになるまでには、下の歯で最低5ヶ月、上の歯で最低7ヶ月程度かかるということです。完全にチタンが骨にくっつくまでには、歯を取り付けてからさらに1年から1年半かかります。つまり、オッセオ・インテグレーションが完成するまでには、実質2年以上かかるということになります。
それでは、どうしてインプラント体を埋入してから4ヶ月でアバットメントを取り付けることができるのでしょうか。
実は皮質骨にしっかりとインプラント体が乗っていることで、これが可能になっているのです。海綿骨とチタンが臨床上使える程度にオッセオ・インテグレーションができていれば、皮質骨がインプラント体の咬合圧を負担できるので4ヶ月経てば噛めるようになります。
現在は共振共鳴装置が開発され、インプラント体に振動を加えその数値を測ることで、骨にどれくらいの強さでくっついているかを調べる方法も開発されています。インプラント治療は、シンプルな治療です。
かみ合わせの圧力に耐える工夫1
上下の歯を力いっぱい?み合わせると、一平方センチあたり20キログラムを超える力がかかります。リンゴをかじっただけで、これほどの力がかかります。歯はこうした強い圧力に耐えながら、日常的に噛むという行為を繰り返しています。
インプラントが入れ歯と違う大きな理由は、噛むときにかかる圧力をしっかり受け止め負担するので、残っている自分の歯に余計な負担をかけないということです。
このためには、当然インプラント体がしっかり骨に固定されてグラグラしないということが必要です。
下顎にインプラント体を埋入した場合は、臨床的にオッセオ・インテグレーションが獲得できるまで4ヶ月そのまま置いておきます。上顎は骨が薄くて柔らかいので、定着まで6ヶ月程時間がかかります。
その間は仮歯を装着し、インプラント体に負担をかけないようにします。一定の期間が経過し、骨にくっついたことが確認されてはじめて、上部の歯を取り付ける治療にはいります。
治療の最初は、歯を取り付ける土台となるアバットメントをインプラント体の上につけます。アバットメントは歯肉を貫通させる装置でその上に歯が装填されます。取り付けてから3週間程おいて歯肉のキズが治るのを待ち、治癒した後に、上部構造体(歯)の型を採り、技工操作で歯を作り、それをアバットメントに取り付けます。
外科的テクニックで失敗を防ぐ2
気をつけなければならないものに熱があります。
インプラント体を埋入するために、事前に骨にドリルで穴を空けます。一度でうまく空けばいいですが、骨が硬かったり、適切な位置にドリルを当てなかったことで、なかなか穴が空かないこともあります。この場合、ドリルを骨の上で空回転させると先端に熱を持ちます。
このとき、ドリルの温度が47℃を超してしまうと、骨がくっつかなくなります。47℃以上では骨の細胞が熱によって死んでしまいますので、オッセオ・インテグレーションが起こらなくなり、チタンのインプラント体といえども抜ける可能性があります。そのために新しいよく切れるバーで、ドリリングスピードをコントロールしながら、常に低い温度で回転させることで熱を持たせないようにする必要があります。と同時に、冷却した生理食塩水でドリルと術部を洗いながら形成しています。
インプラント体と生体がくっついてくれることを願い、以前はインプラント体そのものを生理食塩水で洗い冷却しながら埋入する方法がとられていたそうですが、現在は本人の血液をインプラント体につけて埋入するようになっています。といいますのも、血液がついているとオッセオ・インテグレーションが早く行われることがわかってきたからです。
ドリルが熱を持たないようにゆっくりしたスピードで、血液をつけながら埋入するというのがサージカルテクニックとして大切です。
外科的テクニックで失敗を防ぐ1
正しい治療を行なえばという条件におけるサージカルテクニック、つまり歯科医の治療技術も当然大きなウエイトを占めます。
インプラント体の形を見ると、下のほうはねじ山が切ってあるスクリューになっていて、上部は少し膨らんだ形になっています。この少し膨らんだ部分をしっかり皮質骨に固定されることが大切です。
この場合、いかに皮質骨を壊さないで固定させるかという技術が必要になります。
今までは、皮質骨の内側の海綿骨のところでインプラント体の上部を固定されるほうがいいのではと考えられていました。しかし、多孔性の海綿骨のみにしっかり初期固定(プライマリー・スタビリティ)するのは難しいのです。どうしてもしばらくするとグラグラ揺れてきます。インプラント埋入の失敗で多い、抜ける、グラグラするといったトラブルは、インプラント体の初期固定不全が原因であるケースも見受けられます。
それゆえ皮質骨にしっかりと固定する技術が求められます。
インプラントに向く患者・向かない患者3
海綿骨が少なく皮質骨だけが厚く、削っても血液も出ないという人もいます。血液が骨を作り治癒するので、海綿骨がなければいけませんが、海綿骨が少なく硬い皮質骨だけになってしまい血液も出ない骨の質がよくないケースでは、オッセオ・インテグレーションが獲得しがたいといえます。
これらの条件ではインプラント治療は難しいといわれていましたが、最新の技術開発により可能になっています。
以前はインプラント治療を受けられる人が限定されていましたが、現在は技術の進歩により、ほとんどのケースで可能になっています。その意味では、インプラントに向かない人はいなくなっているといっても過言ではありません。
インプラント治療はこの40年で飛躍的に進歩しました。
現在は、正しい治療を行っているという前提であれば、上顎も下顎もかなり高い確率での成功率を誇っています。
正しい治療における条件とは、既に紹介したアルブレクソン教授の指摘した6項目です。
・生体材料として適切なこと
・デザイン(インプラント体の形態)が適切であること
・サーフェス・コンディション(インプラント体の表面)が適切であること
・適切な症例の選択
・サージカルテクニック(外科的技術力)
・インプラント体に加わる咬合
インプラントに向く患者・向かない患者2
歩かなくなり、電気信号による刺激が大腿骨に伝わらなくなると、リモデリングのレベルが下がってくるので、骨が弱くなります。使わなければ筋肉も弱くなり、ついには歩けなくなります。
インプラントを埋入する場合は、歯の骨がしっかりとあることが理想です。骨が全部しっかり残っていて、しかも歯がまったくないという人は、インプラント治療がしやすいです。その際、歯以外はどこにもトラブルがなく健康であるというのも条件になります。
しかしそういう、歯科医にとって都合のいい患者は、それほど多くありません。
すでに、骨の吸収が始まっていたり、高血圧、糖尿病といった生活習慣病だったりと様々な条件を持ちながら治療をするというのが大半です。
また、骨の質によっても条件が違ってきます。
骨は表面の硬い皮質骨と、真ん中の柔らかい海綿骨からできています。海綿骨があまりにも柔らかすぎることで、骨粗鬆症のようになっているケースもあります。あるいは、表面の硬い皮質骨が非常に薄くなっているという場合もあります。これらの場合、骨にインプラント体を埋入しても初期固定が難しく、オッセオ・インテグレーションが獲得できないこともあります。
インプラントに向く患者・向かない患者1
歯が失われた時点から体内への骨の吸収は始まります。入れ歯を入れても、入れないで抜けたままにしておいても、骨が吸収されます。
歯があるときには噛む力がかかり骨に刺激が伝わるので、骨のリモデリングのサイクルが機能します。骨は刺激がかかることで破骨細胞と骨芽細胞が活発に働いて、古い骨を壊し新しい骨を作り上げていきます。このサイクルを2年かけて行ない、骨を新しくします。
ところが歯を失い骨にかかる刺激がなくなってしまうと、リモデリングのサイクル機能が落ちていき、やがて骨は新しく生まれ変わることもなくなり、吸収されていきます。
たとえば、人間は歩かなくなると足が弱ってくるのと同じです。
これは、立って歩くときに重力がかかり、この際、骨の中を電気信号が流れます。これにより、大腿骨の中で骨のリモデリングのスイッチが入ります。歩くことで、大腿骨の古い骨が壊され、新しい骨が作られるので、骨は2年で新しいものに変わっていくことができます。これがうまく機能している限り、2年前の古い骨は身体にはまったくないということになります。